白川太郎医師のアトピー治験にあたってのお話

私は今、末期がんの専門家ということになっていますが、本当は、最初の研究はアレルギーの研究です。
もともと呼吸器の医者で、公害ぜんそくの研究から入りました。
当時はアレルギーへの偏見があり、アレルギーになる人がどういう遺伝的体質を持っているのかということを証明するために遺伝子の研究から入ったわけです。
1980年代の終わり、遺伝子の技術がノーベル賞を取るようになって、やっと遺伝子が調べられるようになった時代でした。
最先端の研究をしていたのがオックスフォード大学の医学部の呼吸器内科で、11番の染色体にアレルギーの遺伝子があるのではないかという論文を発表しました。
それを日本で人種を超えて本当にアレルギーの素因を出す遺伝子があるのかということを研究しました。
尼崎の公害ぜんそくの患者さんの協力を得て、家族の家系138家系の血液をいただくことができるようになりまして、実験したところ、オックスフォードが言っているように、同じところに遺伝子が人種を超えてあるということがわかりました。
そんな縁もあって、イギリスに10年行くことになりました。
そのあと、いろいろな遺伝子を見つけて、ネイチャーやサイエンスに山ほど論文を書きましたけど、要するに最終目的はアレルギーの病気を予防するということだったのです。

当時は僕もバカだったのでわからなかったのだけど、単一遺伝子では説明できなかった。
一つの遺伝子を見つけたから、あるいはその遺伝子を持っているから病気になるとかならないとか、そういう単純な話じゃないわけです。
そこで次々と遺伝子を探していったわけですけど、そのうち、京都大学がそれだけのことをやったのだから、帰ってきて教授になれということで、教授になって帰ってきました。

最先端の研究をしていたのですが、いろいろな事情からアトピーをどうやって治すか、アレルギーをどうやって治すか、ぜんそくをどうやって治すか、当時はステロイドを塗るのがもっぱらの治療法で、私は1万人のステロイドの離脱をやっていました。
ステロイドを離脱するとお岩さんみたいになって、臭いがして家族が嫌がるという人たちをどうやってちゃんと離脱できるのか。
それを助けるために24時間のホットラインを作りました。
1990年11月には朝日新聞の広告で、ステロイドを離脱するボランティアの人の募集もやりました。
学会でもステロイド派の研究者と喧々諤々やっていました。
ですが、残念なことに、アトピー性皮膚炎がどうして起こるか原因がわからない以上、どうやって治療したらいいかがまだわからなくて、ひたすら原因の遺伝子を求めるということでやっていましたが、きちっとしたデータが出にくい。
なぜかというと皮膚の生検取ってきて、その中で正常な人と遺伝子がどう違うか、きちっと発現を調べないといけないのですが、なかなか協力者を得にくい。
痕が非常にひどくなりますのでね。

じゃあ別の方法でやろうということですね。
その当時にみなさん、今はあたりまえになっているんですけど、TH1、TH2バランスという概念が確立してくるわけです。
免疫系には2つの大きな流れがあって、昔の人類というのは結核菌や緑膿菌など、いわゆる菌に感染する、それと同時に寄生虫にも感染したわけですね。
したがって病原菌を殺すということ、疫病から免れる免疫システムを人間が獲得してきたわけです。
TH1というのが感染症の原因となる菌を殺す、そしてTH2というのが寄生虫を殺すということがある程度わかってきたわけです。
この両者が両方働いてこそ、みなさんの体が守られるという。
ところがみなさんご存知のようにまず寄生虫がこの世の中からいなくなって、TH2がする仕事が無くなった。
抗菌グッズとか抗生剤で菌もいなくなり、TH1も仕事が無くなった。

ところがここで重大な変化が起こります。スギ花粉やダニが寄生虫の抗原と非常に似かよっていて、体の中に入ってくると、TH2が寄生虫が入ってきたと勘違いしてそれを撲滅しようとして、攻撃に打って出る。
これがアレルギー炎症の原因だということがわかってきたわけです。
TH2側にシフトして今や国民の4割8分の人がアレルギー素因を全面に出している。
TH1とTH2にはバランスがあってTH1が強ければTH2は弱くなる。
そうすればアレルギーにならないのではないか。
TH1側が非常に仕事をしている人がどういう人かというと、ツベルクリン反応が陽性の人です。
だからツベルクリン反応というのはTH1、TH2の関係性を簡単に表す試験なんです。
アレルギーの人はツベルクリン反応がほとんど出ない。
それが本当かということを、ネズミの実験ではすでにわかっていたのですが、人では誰も証明できていなかった。
それで和歌山県の中学生1000人を調査して、ツベルクリン反応とアレルギー症状の出方を疫学調査しました。
その結果、予想された通り、ツベルクリン反応が大きい人はほとんどアレルギー反応が無いし、逆にツベルクリン反応がまったく出ない人は非常にアレルギーになる頻度が高い。
この研究が1995年のサイエンスに出て、一躍有名になりました。
私が医者としてこれだけの仕事ができた最大のポイントはツベルクリン反応がTH1、TH2反応のマーカーであることに気がついたということです。
BCGを打って、強くTH1反応を刺激すれば、TH2反応が弱くなって、みなさんのアレルギー反応は弱くなる。
実際、アレルギーの人を呼んできて、パイロットとして100人くらいに注射をすると、すべて症状は消えました。
そこで私は厚生労働省にBCGを打って、アレルギーの人の臨床試験をやらせてくれと申請しましたが、却下されました。
BCGはワクチンなので、日本ではワクチンの臨床試験は認められないというのがその理由です。

ほかにそういう場所はどこかというと、腸です。
腸内細菌がたくさんいるわけです。
そこで私たちはBCGの臨床試験が拒否されたあと、研究対象をBCGの注射を打つというところから、腸内細菌がどういうことになっているのかにシフトさせました。
そこで私がまず始めたのは福岡県の産婦人科の先生にお願いして、生まれた赤ちゃんのうんちを600人分集めました。
お母さんに綿棒を渡して、毎日お尻をくちゅくちゅやって、それを冷凍庫の中に入れて、1週間経ったら、宅急便で九大農学部に送ってもらいました。
たまってきたうんちを中山助教授のグループが大学院生30人を使って、うんちを全部溶かして、その中にある遺伝子を見て、どの菌が何パーセントいるのかを調べたんです。
600人のお子さんの遺伝子のパターンを全部調べたんです。
そして、小児科に追跡調査のために国立南九州病院に全員定期的に受けさせて、アレルギーになった子どもと、ならない子供を選別させるという作業をお願いしました。
そして最終的に遺伝子のパターンとアレルギーになったかどうかというファイルをドッキングさせました。
その結果わかったことは、ある種の乳酸菌が無い、ある種の大腸菌が無いというグループがアレルギーになっているということがわかりました。
特に3年間の追跡調査ではアトピー性皮膚炎しか発症しませんので、アトピー性皮膚炎が主として出てきますけど、大変面白いことに、アトピー性皮膚炎を発症するお子さん、ぜんそくを発症するお子さん、花粉症になるお子さん、これみんなパターンが違うんです。
同じ遺伝子パターンを持っているのに、付く菌が違うんですね。
すなわちどの菌が付くかコントロールしている遺伝子があって、それはアレルギーを発症する遺伝子とは別パターンだということがわかりました。

そこで、それが最終的に本当かどうかを確かめるために熊本県の小国町の町長が私たちの研究にものすごく興味を持ってくれて、生まれた新生児をダブルブラインドで乳酸菌を与えた群と小麦粉だけを与えた群の2群に分けて、本当に乳酸菌を与えるとアトピー性皮膚炎が抑えられるかどうかの試験をやりました。
それは大変でした。
妊婦さんを説得するのに、丸1年かかりました。
自分のおなかに子どもがいて、このわけのわからない白川が渡したものを飲んで危険な目にあったり、流産したらどうしてくれるんだ、それはもう喧々囂々の非難の嵐で、おまえはそれでも医者かと言われ続けました。
でも最後に説得できた理由は、私も、家内もアレルギーがあって、生まれてくる子供が予測通り、めちゃくちゃひどいアトピー性皮膚炎で、実はそれをある種のきれいな水と乳酸菌で治したんです。
1年議論したあと、最後に決を取るという日に、実は私も自分の子どもに試しました。
うちの子どもは森永のビフィズス菌でしたけど、森永、明治・・、各社でNO1と思う菌を提供してもらいましたけど、最後にみなさん信じられないかもしれないので、わが子の写真(ひっかき傷で血だらけで大変なものと、3年たってつるつるでほかの子どもより肌がきれいといわれているもの)を見せて、それでも信じないでしょうからということで、三輪車に乗ってうちの娘がチリンチリンとみんなの前に出てきたんですね。
そうしたらお母さん方みんな涙を流して、わが子を触って、わんわん泣いて、わかりましたと。
それでスタートしました。
6年間2006年まで、1万人ぐらいの町なんで毎年100人くらい、最後にファイルを開いたら、アトピー性皮膚炎は1/5に減っていました。
したがってある種の乳酸菌を加えることによって、アトピー性皮膚炎の発症率を1/5まで落とすことができるということが確定して、それを2006年にアレルギー学会の特別講演に呼ばれて、我々はそれを発表させていただきました。

そのあとです。
今、ヨーグルトを食べるとアレルギーの予防にいいとか言っていますが、我々が先鞭を切ってやった試験なんですね。
ただし、オールマイティの菌は無かったです。
ある子はこれ、ある子はこれという。
非常に普遍的に効く菌はありました。
ここまでの話は子供です。
新生児です。
新生児はみなさんご存知のように、免疫系が確立されていません。
したがって真っ白な状態です。
その状態というのは、解剖生理学的に必ず腸を経由して全身循環するという、そういう構造になっています。
したがって、ある種の乳酸菌を投入することによって、腸内のフローラをそちら方向に大きく変える、ぐるぐる回ってくる免疫系は腸内細菌と信号を交わすことによって、あれをしちゃだめ、こうした方がいいですよという、教育を受けてアトピー性の炎症を起こすのをやめると考えられます。

しかし皆さんのような20年30年アトピー性皮膚炎をやっている成人には記憶細胞というのがいるわけで、そういうのがあるから、風疹になったら、一生涯その病気にかからないということになっています。
それは免疫細胞がいて、もう一度その菌が入ってきたら、思い出して、専門部隊をすぐに動員して治してしまう。
それと同じことがアレルギーの世界でも言えるはずです。
皆さんにはアトピーを起こせと命令してきた細胞ががっちりいるはずなんです。
したがって子どもとは全然違うんですね。
大人にも同じ乳酸菌をぶっこんだら子どものようにあっという間にそれが抑えられて、症状が取れるというデータは一つもないんです。
論文はありません。
ですからこれから先が未知の話です。

そこでもう一度免疫系の世界を見ると、実は皆さんの皮膚には一番上の層が角質で、その下にランゲルハンス細胞という特殊な細胞がいます。
血液の中とか、組織の中ではマクロファージとか樹状細胞と呼ばれているグループの細胞で、要するに何らかの抗原を免疫部隊に提示することによって司令官の役割をする。
この細胞が非常に重要な役割を担っているということが、2年前の慶応大学の電子顕微鏡写真で明らかになった。
今までの化粧品は一番上の角質にうるおいを与えることが重要なテーマでした。
しかしその下の真皮に全く手をつけていない。
本当の意味で、皮膚を芯からきれいにするということができませんでした。
そこで資生堂が2年前から免疫美容と称して開発した新商品を大キャンペンのもとに出してきました。
しかしながら、大失敗しました。
なぜならランゲルハンス細胞を怒らせてしまったのです。
ところが、もっとずっと前から、別のグループがランゲルハンス細胞を気持ちよくさせて、皮膚の芯からきれいにするという研究をずっとしていました。
その人達の結論はアミノ酸が2個か3個集まったオリゴペプチドをうまく与えると、ランゲルハンス細胞が活性化して、非常にきれいな肌になることがデータで示されました。
私たちはその特殊な化粧品をもらって、アトピー性皮膚炎の子どもたちや大人に塗ってみました。
すばらしくきれいになります。
オリゴペプチドアミノ酸は角質層を簡単に通ります。
分子量が100から200しかない非常に低い低分子です。オリゴペプチドで500くらいです。

消化というのはアミノ酸が1万個以上連なったたんぱく質をずたずたに切って、血液の中に運ぶものです。
10年前の教科書には一つ一つのアミノ酸に切ってから吸収すると書かれていましたが、間違いだということがわかりました。
遺伝子学の進歩のおかげで、腸管の壁にリセッターというものがあって、それが何をくっつけていたかがわかりました。
それがオリゴペプチドでした。
オリゴペプチドはエネルギーを使わずに自然に吸収されるのに対し、1個のアミノ酸は莫大なエネルギーを使わないと血液の中に入りません。
免疫細胞も3個か4個のオリゴペプチドを認識して、それらを敵とみなして攻撃していることがわかりました。
アミノ酸の分子量は20個ですから、3個連なっただけでも8000とおり、4個だと16万とおりになるんです。
それだけですべての異物を認識できます。

まだ腸内細菌をどうやっていじくったら、ランゲルハンス細胞を気持ちよくできるかわかりませんが、オリゴペプチドを何らかの形で皮膚に到達させれば、アトピー性皮膚炎が治ることがありうるのです。
では皆さんの体の中にオリゴペプチドを入れられるものが何かというと、それが発酵食品なんですね。
発酵すると、オリゴペプチドがたくさん作られる。
発酵食品は世界に冠たる日本の食品です。
東京大学でコンピュータでシミュレーションして、8000通りの中に血圧を大きく下げるオリゴペプチドや血糖値を大きく下げるオリゴペプチドがいくつも見つかってきたわけです。
薬を使わなくても、食品で可能なことがわかってきました。
酵素ジュースも果物によって、オリゴペプチドが違ってくる。皆さんの手で作るために、同じ材料でもAさんとBさんでは全然違うものが作られることがありうるということです。
オリゴペプチドが十分に働くためにはミネラルが必要だということもわかっています。
マンガン、クローム、亜鉛といった微量元素が真ん中にあって、酵素が働いています。
そこでどこで切るかが決められています。
ミネラルを多く含む食品はローフードです。
酵素ジュースとの組み合わせが非常に安価で、各人の家でできます。
新しい栄養学がつくれるのではないか。
私たちがめざした新しい医学です。

医学部の人間には栄養という概念が全く無かったのですが、Attivaの睦美さんと知り合うことで、新しい治療法が見えてきました。
今回、共同で治験をさせていただくこととなった次第です。
すでに糖尿病でお医者さんがびっくりするような結果(患者は現在、当クリニック医師)が出ています。
大人なので、記憶細胞はいるけれども、ランゲルハンス細胞を気持ちよくすることでアトピー性皮膚炎が改善できるかどうか、私はできると思っています。
今回はみなさんに同じ乳酸菌、同じオリゴペプチドを提供することで、栄養療法による治験を行います。

白川太郎医師:銀座中央クリニック院長 元京都大学大学院医学研究科教授(統合医療)
オックスフォード大学留学中に、日本人医学者としてトップクラスの論文引用数を誇る世界的な遺伝子学者

今回の治験は3か月間、11名に対しすべて無償で行われています。
  筆責 上坂