第22回

波瀾だった過去・22(変わらない葛藤)

  • イベントコンパニオンの仕事はなかなか楽しくて、
    今までと違う新しいお友達も出来て、
    少しずつ私のダークな人生が、憧れの「普通」になり始めた。

    それでも、日給8000円ちょっとのイベントコンパニオンの仕事は
    もちろん毎日入るわけではなく、バブル崩壊の影響で収入も不安定。

    15歳からやり始めた水商売の仕事は、昼間仕事を持つ副業には
    持ってこいのアルバイトだった。

    だが、いくら15歳からやっていたとはいえ、
    ホステスと言う仕事にやりがいは見出せず、
    割り切れないバカ正直な性格の私には相変わらず苦痛でしかなかった。

    母から「銀座に行ってお金を稼ぎなさい」と、
    姪っ子ということで銀座のお店を紹介されたけれど、
    知らないオジさんと話す事は、銀座だろうと地元だろうと
    同じく、ただただ苦痛だった。


    そんなある日、銀座のお店に、ある有名な元スポーツ選手が
    演歌歌手に連れられて初めてお店に来た。
    席に着いた私は、地元が同じということで食事に誘われ、連絡先を交換した。

    そしてその日お店のママから
    「あの人をまたお店に呼びなさい、そしたらお給料上げる」
    と命令が。。。
    元々営業電話もしない私には、ものすごいプレッシャー。

    すぐにその人は私に電話をしてきて、翌週早速食事に誘われた。

    行った先は、私の苦手なお寿司。

    「お前にザリガニ出して伊勢エビって言っても食いそうだな」
    お寿司苦手な上に、良いものを食べて来た経験も少ないもんだから
    まぁ馬鹿にされている。

    だけど、そもそもその前に、私は会ってすぐの人に「お前」と呼ばれることが
    何より一番嫌いだった。

    内心「なんなの?芸能人だからって偉そうに」
    「お給料上がらなくていいから、もうこの人とは会うのやめよ」
    そんな風に思いながらも、マネージャーも同席して3人で食事をした。


    「ウチでみんなでゲームしよ!アッコさんの番組も見ないといけないし」
    とその人は私も一緒に車に乗せようとした。

    ”一人じゃマズイけど、マネージャーさんも一緒だし、
    みんなでゲームって言ってるし、終わったら帰れば大丈夫かな?”
    そんな気持ちで私は言われるままに車に乗ってしまった。

    世田谷の一等地の豪華なマンション、
    何部屋もあるリビングの広い部屋、
    3人でテレビゲームをして、番組を見て・・・

    しばらくして帰ろうとするマネージャー、
    「じゃ、私も」と立ち上がる私。

    「あとでちゃんと送るから」と私の腕を強く掴み
    マネージャーだけを帰そうとするその人。

    過去の色々な経験がよぎる・・・


    ”もしかして、ハメられた?”


    2人きりになってしまい、不安と何とも言えない想いが溢れてくる。

    そして案の定、その人は突然私にべったりとくっついてきた。


    「電車も無くなるし、そろそろ帰ります。またご飯行きましょう!」
    と立ち上がるたびに「ちゃんと送るから、まだいいじゃん」と
    私を押さえ込む。


    そして、触ってくる・・・


    「いやいや・・・本当に帰らないと」と手をほどきながら苦笑いして離れようとしても
    その人は「大丈夫、大丈夫」と、それしか言わない。

    本当に、何回大丈夫と聞いたかわからない。


    この時から、「大丈夫」という男は信用してはいけないというセオリーが出来た。



    「本当に帰ります!」
    「大丈夫、大丈夫」

    一時間以上そんなやり取りをしたと思う。


    ハタチの小娘が、2メートル近くもある元スポーツ選手の大きな大きなその人に抵抗できるはずもなく
    そのやり取りに諦めた私は、最後その人の言いなりになった。



    「もう、いいや・・・もうどうでもいいや」



    それまでの私の人生、
    何度となくその言葉を繰り返し生きて来た。



    憧れの普通の人になりたくて
    昼間の仕事に、普通の友人・・・


    だけど、自分の中では何一つ変わっていない。



    自分を大切に出来ない、
    誰からも大切にしてもらえない


    自分を愛せない、
    誰からも愛してもらえない



    仕事を変えても
    生活を変えても


    その葛藤は
    ずっと続いていった。。。