第32回

波瀾だった過去・32(混乱と正気)

  • たった一人で迎えた23歳のお誕生日。。。

    子供の頃から、お誕生日はろくな思い出がない。

    お祝いしてもらった記憶は
    家族が揃っていた4歳のお誕生日と
    ブログにも書いたが18歳の時に売人のお兄ちゃんがくれたプレゼントくらい。

    ホステス時代にお客さんにお祝いしてもらうことはあったけど
    お友達や恋人にお祝いしてもらったことがなかった私にとって
    ひとりぽっちのお誕生日は人一倍淋しくてたまらない反面
    孤独にはいつも慣れっこだった。

    そして不思議なことに
    ここまでショッキングな状況だと
    淋しさすらも感じられなかった。

    ボーゼンとする日々が逆に幸いして
    お誕生日だからって嬉しいこともなければ
    特別淋しさも感じなかったようだ。


    そしてその夜、ふらっと外出しようとポストを覗いたら
    私宛に封筒が入っていた。

    郵送で送られてきたものではなく
    直接入れられたもの。


    開けてみるとそこには

    『沙織ちゃん、お誕生日おめでとう。
    〇〇(彼の下の名前)がいなくて淋しいだろうけど、
    心から祝福しています。
    俺でよかったら食事に行こう。』

    というメッセージ入りのバースデーカードが入っていた。

    届けてくれたのは、いつも優しく声をかけてくれる刑事さん。

    素直に嬉しかったし、”〇〇がいなくて”の言葉を見て
    『私は今ひとりなのだ・・・』と改めて感じ
    思わず私は優しさと淋しさで泣いてしまった。


    翌日、キャバクラ時代の友人が、話があるということで
    広尾でエステを経営してる友人を連れて自宅に来た。

    キャバクラの友人は、お互いナンバー1とナンバー2を争っていたけど
    とても仲が良かった2つ下のM子。
    エステをやってる子は、そのM子の学生時代の友人で
    私も紹介されて何度かサロンに行ったり遊んだことのあるY。

    聞けば、Yが主催で恵比寿のウエスティンホテルのスイートで
    美容のイベントやるからメイク担当で来てくれないか?という打診だった。

    当時から美容が好きでメイクが得意だったことで
    「沙織目立つし映えるから来てよ」という有り難い話だった。

    だけど、電気も点けず真っ暗闇でタバコだけぼーっと吸ってる私の様子を見て、
    一体何があったんだ???と2人はビックリしながらも笑いながら聞いて来た。

    実は・・・と、この一連の彼の逮捕劇と嘘だらけだった彼の実情のショック話を
    私は2人に打ち明けた。

    2人とも世田谷に住むお嬢様だけど、不良とも繋がってるような
    経験豊富な友人だったせいか、特別驚くこともなく、だけど
    「すごい話だね~~」とたまに笑いを交えながら聞いてくれた。


    「でもね、刑事さんが優しくてさ、昨日もバースデーのカードが届いてて
    それが唯一の救いだよ・・・食事にも誘ってくれて、本当にありがたい」
    と私が話した途端、ふたりは目の色を変えて
    「ダメ!!!!絶対ダメ!!!!そんなん行くなって!」
    とすごい勢いで止めて来た。

    「刑事なんて、警察なんてロクなのいないっての!!!」
    「絶対ダメ!!!そんなん下心しかないって!!!ダメダメ!!」

    正直、私は困惑した。
    混乱した。

    「じゃ、一体誰を信じたらいいの?!もうわかんないよ!!
    一体何を信じたらいいのよ!!」
    思わず出た本音。


    ここまで来て、一体誰を?何を?信じたら良いって言うの?

    こんな時に優しくされて、慰めてくれて、刑事さんなのに下心とか・・・
    もうわかんないよ!!!と、頭も心も混乱した。


    そして、いつまでも落ち込んでてもいけないと
    そんな時だからこそ、気晴らしに一緒にイベントやろう♪と
    2人は温かく声をかけてくれた。


    確かに彼女達の言う通り、混乱しか今はないけど
    いつまでもメソメソしていられない、と私は落ち着きを取り戻し始めた。

    家賃も負担してくれていた彼が逮捕され
    現実の問題を片付けないといけないし
    少しずつ冷静に対処することをし始めた。

    家賃のためにも生活のためにも
    お店になるべく出て働くこと。

    そして、昼間のやりがいある仕事を探して就職してみよう!
    と、私は何かを奮い立たせるかのように気持ちを切り替え
    行動をし始めた。

    ただひとつ気になったのは
    彼がもし詐欺師のような人だとするならば
    私に何か被害がある恐れもあるということ。

    何も話せていない状況で疑いたくはなかったけれど
    もし彼が本当に犯罪者で、私を利用しようとして付き合ったならば
    印鑑証明なんかも手に取れる状況で一緒に暮らしていたのだから
    どこかで私の名前でお金を借りていることだってあり得る。

    万一、彼がそんなことをしていたら・・・
    もしそうだったら、どうしたらいいか???

    少ない頭で私は色々考え始めた。


    そんな矢先、刑事さんから一応自宅を見せてくれという連絡があり
    私は、何となく彼の物をチェックしてみた。
    一緒に住んでいても、彼の物を一々見たことは無かったけれど
    色々な胸騒ぎがして、服のポケットなんかを探ってみた。

    そして、出て来た物・・・パイプ。

    どう見てもガンジャを吸うためのパイプ。

    私の前で吸ってるのを見たことはないし
    そんな話も聞いたことなかった私は
    もう彼という人間が信じられなくなっていった。

    「隠れてそんなんやってたなんて全然知らなかった」

    刑事さんが来た当日、私は刑事さんにそれを見せた。
    刑事さんは特別家宅捜索みたいなこともせず
    ただ部屋を見に来ただけだったが
    彼に対して不信感と恐怖しかなくなってきた私は
    助けを求めるかのようにパイプを見せた。

    「現物があるわけじゃないからどうしようもないけど
    叩けば色々出てきそうだな」・・・刑事さんはボソっと言った。



    もしも彼が本当に「ワル」だったら???
    そんな不安が溢れて止まらなくなった私は
    もしもの時のことを考えた。

    もしもそういうことがあったら、どうしたらいいか???

    『彼の親に会って、事情を話そうか』
    『もしもの時は責任を取ってもらえるように話をしておこうか』

    そんな考えがよぎる。


    『もしも彼が私の名義とかで何か悪さをしていたら
    分かってから話に行っても相手にしてもらえないかもしれない。
    なら、先に話をして、この現状も伝えた方が良いのかも・・・』

    そんな風に思った私は、彼の実家を調べて、思い切って電話をした。


    緊張しないわけはない。
    だけど、それよりも「もしも?」の時の不安の方が大きくて
    私は思い切って電話をした。


    出たのはお父様だった。

    威厳のありそうな声で、見ず知らずの私の話を聞いていた。

    簡単な事情を話した上で、
    会ってきちんとお話をしたいから時間を頂きたい、と
    私は彼のお父様と会う約束を取り付けた。