第61回

波瀾だった過去61 苦悩

”自分が我慢すれば
家族みんな幸せなんだ・・・”

そんな風に自分に言い聞かせ
覚悟を決めようと思ったその夜
ふと母に
「私が我慢すればいいんだね・・」
そう言うと

「え?我慢なの??
じゃ無理することないんじゃない?」
と母から返って来た


私が無理してないと思ってたこと自体が
私にはさらにびっくりすることだったが
やっぱり自分の気持ちに嘘はつけなかった



ナンバーワンとして
お店で頑張りながら
家では母がお母さん業を
私は父親業をする
そんな毎日を過ごしていた



そんな時
行きつけのバーで出会った
4つ下で当時29歳の男の子と
私は付き合い始めた


レゲエが好きで
地元もほぼ同じで
背の高い男の子


今思えばだけど
50代〜70代のお客さんとばかり
日々接していたから
仕事や収入はどうでもいいから
気を使わずいられる
同年代の彼と居たかったのかもしれない


お金がなかったらファストフードや牛丼でもいいから
「女に金は出させない!」という
男としてのポリシーだけ持っててくれたら
仕事内容とか当時の私はどうでもよかった


それまで年下は
10代の頃に一つ下の子と付き合っただけで
4つも下は初めて


しかもこの頃は
結婚生活で
しょっちゅう旦那さんから
「もうおばさんじゃん笑」
と言われ続けてきたので
女性としての自信も全くなかったし
そもそもシングルマザーで
誰がこんな子持ちと付き合ってくれるんだろ
と心底思って自信喪失していた頃

お店でナンバーワンはとっていても
それは家庭がある富裕層のオジさまばかりで
年相応な普通の恋愛は
30超えたシングルマザーでは無理だと
本当に思っていた


だからその彼に褒められるたびに
「え?本当に?本当なの?」と
よく聞いていたくらいだった


彼とは子どもたちを連れて
よく出かけたりもしていたし
仲良く楽しくやっていたが
ただひとつこの彼の問題点は
仕事が続かないという
いわゆる社会的なダメ男だったこと

そして
加えてガンジャ(マリファナ)好き


過去私もドラッグには溺れたが
ガンジャは好きではなくて
そもそも30過ぎて
可愛い愛する子どもがいて
ドラッグをやりたいなんて
何があっても思わなかったし
絶対しない!と決めていた


ま、今思えば
自分がそのレベルの人間だったから
この彼を好きになり付き合ったのだと思うけど
この頃はそんなこと気づきもせず・・・



そんな中
ふとしたタイミングで
母と彼を会わせた時

「なにあれ、なにあの男
なんであんなんと付き合ってんの?」

と、母から猛反対を食らった



私としては
母にだけは賛成して欲しかったし
母にだけは認めて欲しかったのだが
会った瞬間
猛烈な嫌悪感と見下す表情で
彼を見ていた


たまに二人でデートしに出かけても
「あんなんと会うために子守するなら
もう帰るよ!!!!」
と昔ながらのヒステリックママになる


子供の頃
何よりも恐怖で
何よりも見たくなかった
あの母のヒステリックな怒鳴り声


今までの人生で一番
母と過ごす時間ができたこの生活は
嬉しいこともあったが
そんなツライことも
また復活する時間だった


しかも時折言われる
この「もう来ないよ!」
という脅し文句は
この時の私には
猛烈な脅迫だった


母が来なくなったら
仕事に行けなくなる
イコール
生活ができなくなる

それを意味するからだ


だから母から
「もう来ないよ!」
と言われると
何も言い返せないくらい 
印籠のごとく
私の一番の弱みだった

今まで母には我慢ばかりで
本気で反抗したことなかった私も
あまりに理不尽でヒステリックな怒り方に
この時ばかりはブチ切れた


自分は今まで散々男のところにいて
ちっとも帰って来なかったくせに
そんなこと言う資格ないだろが!」



そう、
小さかった頃
お正月もクリスマスも
男のとこばかりで
私とちっとも居てくれなかった母親が
私の恋愛に口出す資格はない・・・

そんな悔しい思いでいっぱいだった



ダメ男だけれど
この時の私には
オジさまたちに気を遣い
お店で必死に頑張る私を
同年代の感覚で
ふっと素に戻れる彼が
一種のストレス解消になってたのだと思う



そんなある日
自分がお店で
居場所がなくなり始めてることに
気がついた


あれだけ
「ナンバーワンよ!ナンバーワンよ!」と
私をプッシュしていたママが
突如私の存在を無視し始めたのだ


私と仲がよかった女の子を
お客さんにプッシュしはじめ
「この子、いい子でしょ〜〜〜!」と
半ば強引に彼女の指名を入れていく



まるで世代交代かのような
そんな手の平返しに私は戸惑った



”あ・・・これって見たことある光景”


そう
私が入店した時にナンバーワンだった姉さんが
みるみるママから冷たくされ
地位も立場も落ちて行った
あの光景



”今度は私???”



どうやらこの店は
ナンバーワンになると
徐々に冷遇を受け始め
落とされて行くという
暗黙の仕組みが存在していた



そしてもう一点
気づいたこと



ナンバーワンになったのは
私の実力だけではなくて
今のこの彼女のように
ママから祭り上げられた
不戦勝的な指名があったのかもしれない



あの姉さんを落として
私をナンバーワンにするために
ママが仕組んでやっていたことなのかも・・・


そう気がついたのだ



もともと私は負けず嫌いで
いや・・・・負け嫌いで
負けることがとにかくイヤだからこそ
負け戦はしないという
なんとも弱い一面がある


”こんなならお店辞めちゃおうかな”



こんな時

私はすぐに逃げ出したくなる


これ以上傷つきたくないし
これ以上惨めな思いをしたくない



だけど毎月黙ってても
母にバイト代と食費で13万円
家賃113000円
光熱費入れて26〜27万円は出ていく


養育費ももらわず
子どもたち2人を育てながら
固定費が30万円近く出て行くのは
本当にしんどいことだった


辞めたくても辞められない


そんな環境の中で
お店でも徐々に
自分の居場所をなくされ
私は途方に暮れ始めた